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(1)概要

 条は、特許権や専用実施権の侵害を証明するための査証人への査証の命令の申立てについて規定したものである。

(2)趣旨

 特許発明が方法の発明や無体物であるプログラムの発明(コンピュータを動作させる方法という実質的に方法の発明)のように文書提出命令や検証物提示命令»105条)によって相手方の所有する書類や物件を入手するだけでは侵害を証明することが困難な場合もあるので、そのために侵害の証明が妨げられることになると、特許権者や専用実施権者に苛酷であるとともに侵害を助長することになるからである

 補足1専門的知見を有する査証人が裁判所から命じられて相手方の事業所へ出向いて査証を行った結果(査証報告書を侵害の証拠書証として追って提出できる査証制度は令和元年の法改正(令和2年0月1日施行)によって新たに設けられたものである。なお査証は実地検証に類似するが、裁判官ではなく査証人が行う点と権限が拡大されている点で実地検証よりも強力である

 補足2査証の命令発令)の要件は、次の4つである。なお下記@〜Bは申立人が主張すべき積極的要件(»本条2項下記Cは相手方が意見の聴取において)不相当性を主張すべき消極的要件である。
 @
査証の)必要性、すなわち
立証されるべき事実の有無を判断するため、相手方が所持し、又は管理する書類又は装置その他の物(以下「書類等」という)について、確認、作動、計測、実験その他の措置をとることによる証拠の収集が必要であると認められる」こと»本条1項本文)
 A
侵害の)蓋然性、すなわち特許権又は専用実施権を相手方が侵害したことを疑うに足りる相当な理由があると認められ」ること»本条1項本文)
 B
査証の)補充性、すなわち申立人が自ら又は他の手段によっては、当該証拠の収集を行うことができないと見込まれる」こと»本条1項本文)
 C
査証の)相当性不相当性、すなわち当該証拠の収集に要すべき時間又は査証を受けるべき当事者の負担が不相当なものとなることその他の事情により、相当でないと認めるとき」でないこと»本条1項ただし書)