大阪地裁(平成28年1月21日)“パック用シート事件”は、「特許法102条3項の『特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額』とは、本件特許発明を実施許諾する場合の客観的に相当な実施料の額をいうと解される。本件では、被告は、シート製造業者から納入を受けたパック用シートについて、袋容器に美容液を充填して封をし、被告製品を製造した上で、他の美容商品を購入した顧客に対して特典として無償で譲渡している・・・・が、そのような場合であっても、市場利益を得るために被告製品に織り込まれたパック用シートの価値を利用し、その価値を顧客に提供したことに変わりはないから、譲渡分についての実施料相当額は、販売(有償譲渡)した場合と同様に算定するのが相当である」、「被告製品を市場で販売することを想定する場合、本件特許発明の実施許諾の際には、実際に販売された分については、実施品の総売上額に実施料率を乗じることによって実施料を算出する方式を採用するものと考えられ、被告製品を市場で販売した場合の価格を基準に実施料相当額を算定するのが相当である」、「原告が受けるべき実施料相当額を算定するに当たって基礎とすべき被告製品1枚当たりの販売価格としては、同種商品の市場販売価格・・・・を考慮すれば、その平均的な価格として1000円とするのが相当である」、「被告製品のうち実際に譲渡された●●●●●●●●については、想定市場販売価格である1枚1000円を基礎として実施料相当額を算定するのが相当である」、「証拠・・・・によれば、『ロイヤルティ料率アンケート調査結果』において、『頭部に着用するもの』等を対象とする『個人用品または家庭用品』に係る特許権の『ロイヤルティ料率相場』は、『2〜3%未満』が30.8%、『3〜4%未満」が30.8%、『4〜5%未満』が23.1%となっている。これらの数値が実施料率の通常の業界相場であると考えられるが、本件特有の事情としては、以下の点がある」、「まず、原告は、自らパック用シートの製造販売を行う者ではなく、被告の競合他社に本件特許発明を実施許諾しているといった事情もうかがわれないから、原告が、被告に対して、本件特許発明を実施許諾しなかったであろうとは考え難い。むしろ、証拠・・・・によれば、原告と被告は、平成22年6月24日、平成23年4月18日までの秘密保持契約を締結し、被告が本件特許等を実施することを希望する場合、原告と被告はその協議をする旨が定められており、原告は、被告に対する本件特許発明の実施許諾について、積極的な姿勢を示していたといえる」、「また、被告製品は、本件特許発明の対象であるパック用シートに、美容液を含浸させたものであるところ、被告の広報雑誌・・・・では、全4頁の被告製品の広告の中で、美容液の成分・効果とシートの素材・形状にそれぞれ1頁を当て、両者を被告製品の特徴として同等に宣伝、広告しており、このような宣伝態様は、被告製品配布用台紙・・・・でも同様であることから、両者は、顧客の誘引に、同等に寄与していると考えられる」、「さらに、被告製品の顧客吸引力については、被告が化粧品業界における著名企業であり、特典の元になる美容商品自体も顧客を誘引する要素になっていると考えらる上、被告製品のシートには、本件特許発明の切り込み線による効果だけではなく、鼻と口の間の縦の切り取り線の部分を切り離して引き寄せ、フェイスマスクをより立体的にして、より小鼻を覆いやすくしているという独自の工夫がされている」、「これらの事情を総合すると、本件において、被告製品を市場で販売する場合を想定した場合の実施料率は、2%と認めるのが相当である。なお、本件での被告製品は無償で譲渡されているが、原告が、被告に対する本件特許発明の実施許諾について、積極的な姿勢を示していたといえることは上記のとおりであるけれども、原告と被告が無償譲渡の点を考慮して実施料を特に減額するような特別な関係にあったと認めるに足りる証拠はないから、無償譲渡である点は実施料率に影響を及ぼすものではない」と述べている。 |